正常 ほど 不気味 な 発狂 は ない。 だって、 狂っ て いる のに、 こんなにも 正しい の だ から。
村田沙耶香. 消滅世界 (河出文庫) (Kindle の位置No.2494-2495). 河出書房新社. Kindle 版.
読んでいるうちに、足元の価値観がぐらぐら揺らぐような感覚を覚える近未来SF小説。
友達に紹介されて読んでみた。
設定は今の価値で考えると荒唐無稽なんだけど、ひとつひとつの設定のアイデアが、今僕らが生きている世界で起きていることを種に作られていて、それがあり得るならそういう事になるよねと妙に納得してしまう。
設定の一つとして夫婦の関係。
セックスで子供を授かることが一般的ではなくなった世の中では、夫婦でセックスするのは近親相姦として変質者扱いとなっている。
理由は家族だからだ。
配偶者は家庭を築くもので、恋愛はお互い外に求めることが一般的になっている設定。
我々の生きている世界ではあり得ない設定だけど、夫婦のセックスレス問題、子供を授かった後の夫婦の関係の仕方とか、心理だけを見れば理解し難いものでもないような。
なんだか、くすぐられているようなザワザワを覚える。
人類史を紐解けば、かつては兄妹や親戚間で子供を作った。つまりはセックスした。
それは、その当時は異常な行為ではなかったのだろうが、今の価値からすれば、近親相姦として忌み嫌われている。
これと同じように、環境、状況が変われば、夫婦でセックスする事が変態行為として取り扱われてゆくというのは、全然あり得ない話ではないなと思った。
けれど ある 日、 事件 が 起き た。 犬 を 撫でる よう だっ た 彼 の 手つき が、 急 に 性的 な 動き へと 変わっ た の だ。
さっき までとは 違う 意味 を もっ て 動き 始め た 手 に、 あれ、 でも 気 の せい かな、 と 思っ て いる と、 急 に 尻 と 胸 を まさぐら れ た。 慌て て 立と う と する と、 勃起 し た 夫 の ペニス が 膝 に 当たっ た。 私 は 呆然 と し た。 まさか、『 家族』 に 勃起 さ れる とき が くる とは。 叫ぼ う と し た が、 夫 の 口 に 塞が れ た。 舌 を 舐め まわさ れ て、 嘔吐 物 が こみあげ た。 私 は 夫 の 口 に 嘔吐 し、 飛び のい た 夫 を 押しのけ て トイレ に 走っ た。 何度 も 吐い た。
そのまま 警察 に 行き、「 夫 に 襲わ れ た ん です」 と 言う と、 警察 も 驚い て い た。 保護 さ れ た 私 は 落ち着く まで 家 には 近づか ない ほう が いい と 言わ れ、 一時的 に 樹里 の 家 に 避難 し た。 母 は 夫 の 味方 を する かも しれ ない と 思っ た から だ。 樹里 は 訴え た ほう が いい と 言っ た が 夫 の 顔 も 見 たく なかっ た ので そこ までは し なかっ た。 安い ワンルーム を 探し、 平日 に 会社 を 休み、 二人 で 住ん で い た 家 から 身の回り の 品 を 持ち出し て、 なんとか 一人暮らし を 始め た。 離婚 の 際 には、 夫 の 両親 と 私 の 母 を 含め た 家族 で 話し合い を し
村田沙耶香. 消滅世界 (河出文庫) (Kindle の位置No.528-532). 河出書房新社. Kindle 版.
後半の実験都市千葉が舞台になると、村田さんが作り上げた世界によって、僕たちが生きているこの世界が不確かなものなのではないだろうかと、ますます眩暈がしてくる。
読了後も、家族とは、恋とは、、、とグルグルと出口のないメビウスをめぐってしまう。
機会あったら是非読んでみて欲しい。
ハードカバーの装丁の写真はHASEOさんの写真だった。