ピクサーの財務責任者のトップを務めたローレンス・レビーによるピクサー時代の回顧記。
感想から言うと、凄く面白かった!
会ったことない、スティーブ・ジョブズから 会って話をしませんか? という1本の電話から物語が始まる。
前途多難、八方ふさがりの状況を、仲間と共に乗り越えていく様が描かれており、一緒にピクサーの成功を追体験できる内容。
面白い点は多岐にわたる。この1冊でいろんな事が勉強になる。
スティーブ・ジョブズは伝説の経営者で、スゴイ部分が色々語られるが、本書では結構控えめ。
ピクサーもスティーブ・ジョブズの名手腕によって成功企業になったようなイメージがあるけれど、内実そういう訳ではなかったみたい。
ルーカスフィルムから独立したピクサーをジョブズが買ったのは、そのコンピューターグラフィック技術が欲しかったのであって、アニメーションの方はあまり興味を持っていなかった。
創業以来10年以上も収益化できておらず、著者のレビーさんが着任するまでお金を生み出す手立てが殆ど一つもないボロボロの状況だったみたい。
おまけに、実務部門とジョブズの関係は最悪な関係だったみたい。
ピクサーの中身になる部分は実務部門のスタッフ達が殆ど作りあげておりジョブズの影響は小さかった事が書かれていた。
今でこそアメリカが生んだ天才経営者みたいな扱いだけど、この頃のジョブズは低迷しており、アップルを追い出されてネクストコンピュータも軌道にのせれず、ピクサーも収益化できず。
ピクサーを手放さなかったのも、今に観ておれ!みたいな意地があったみたい。
赤字を毎月自費で補填するような状況。
この毎月自費を垂れ流すのに困ってレビーさんを抜擢した。
ジョブズは株式上場して資金を手にして、この状況から逃れたいと思っていた。
その中での唯一の希望の光がトイストーリーだったみたい。
これがヒット、しかも特大級の記録的ヒットをしないとすべてが終わりという状況で挑んだ公開だったのが描かれていた。
レビーさんとジョブズを中心に歩むIPO新規株式公開までの道のりの中で、色々な人との共同作業を通してジョブズが経営者としてどんどん成長してゆく描写がとても面白い。
今のジョブズの名声も、ピクサーでの経験がなかったら絶対にありえなかったのだなと思わせる。
他にも、本を通して、エンターテイメント業界、特にアニメーションのビジネスというのはどういうものなのかというところに触れられる点も読みどころ。
ディズニー、ピクサー間で結ばれた契約。
なんでこんなアンフェアな契約になるのかとか。
上場企業がエンターテイメント起業を運営する難しさとか細かく書いてある。
エンターテイメントという博打事業を、いかに会社経営として安定させるかは凄い難しい課題の様だ。
特にアニメーション業界特有の問題 持越費用。
実写映画は、映画1本ごとにプロジェクトチームで集まって、公開始まったら解散終了のギグエコノミースタイルで、公開後は費用はかからないのだけど、アニメの場合は会社員として雇い続けるので1本だけヒットしてもその利益は固定給ですぐにふっとんでしまうので、常にヒット作品を生み出し続けなければならないプレッシャーがあるみたい。
そのため、経営サイドがクリエイティブ部門に口をはさみがちになり、ストーリーとかも冒険できない事情がある。
だからディズニーのアニメは、勧善懲悪だったり家族愛、友情、最後はハッピーエンドみたいな内容が多い。
世界的上場企業が、ジブリをはじめとする日本のアニメ的なメッセージ性の強い作品を作るのはとても難しいことなのだね。
岡田斗司夫さんが、本のなかで、これから日本のアニメのバブル期が来る。
君の名はとかの高い評価を得て、NETFLIXとか海外からの製作依頼がジャンジャンきて日本のアニメーション業界は好景気を迎えるみたいな話あったけど、このディズニーとピクサーの関わり合いをみているとそんな簡単な話でもなさそうですね。
お金を出せば口も出すっていうのが普通みたい。
とは言え、ピクサーのおかげで、ディズニーもクリエイティブ部門を支配する関係を見直そうみたいな流れに少しなってきたのは、本書でも書いてあった。
最後に、AIに仕事を奪われる仕事として弁護士って職業は挙がっているけど、この本読む限りでは、弁護士の仕事はなかなか無くならないとは思う。
人と人とのぶつかり合いだし、戦略としてどの法律が使えて使えないのか将棋の駒を選ぶ勘所みたいなのは、機械仕事ではなかなかできるものじゃないと思いました。
結構長い本ですけど、翻訳にも癖がなくするする読めるのでとてもおススメです。
こちらもKindle Unlimitedで読めます。