橘 玲さんの最新刊の新書。
他の著書とも重複点も多いが末章は面白かった。
資本主義社会と言うのは恵まれている人がどんどん恵まれて行く。
それは福利の計算で説明されている。
お金を持っている人はお金を使ってお金を増やすことができる。
持っていない人はそれができない。
そして経済格差は時に幸福度格差も生み出す。
人間関係を説明するのに用いた3つの空間。
愛情空間、友情空間、貨幣空間。
友情空間の広大な広がりにより相対的な価値が下がり、愛情空間に価値が置かれるようになってきた。
この愛情空間の充実が幸福度を左右している。
男性において、家族や恋人を持つ事と経済力は関係があるので、経済弱者になると愛情空間に身を置くことが難しくなりがちになる。
そして、かつては身分や生まれのせいで不幸な人生を送っているという説明が成り立ったが、今の自由主義的考えでは、表向きにはそれは自己責任、努力不足で起こっている事と説明されるのでその苦しさがある。
(実際は、格差によるスタートラインの違いなど努力では表向きの教義と異なる実態が横たわる)
人類史を見ても平和な時期が続けばこの傾向は必ず出現する。
それを平準化してきたのは戦争や疫病と言うイベント。
問題もあるがそれでも資本主義と言うのは人間の欲望を叶え、技術を発展させるのにとても効率よく働いたシステムであった。
貧富の格差を生み出してしまうが全体的には人類の発展に貢献してきた。
このことから資本主義を廃止することは難しい。
橘 玲さんのベーシックインカム否定論はとても納得がいく。
外国人を連れてきて日本人と結婚して子供を見たらその分お金がもらえる事が可能になると必ず問題になる。
その問題の回避には、誰を受給対象の日本人とするかという事に議論が向かうだろう。
その結果苛烈な人種差別が発生してしまうので、絶対にうまく行かない。
ここまでは他の著書でも書いている。
この本でしか語られていない部分は末章の部分。
ベーシックインカムはAIや個人をデーターベースで接続する技術以前に考案された仕組みで既に古い。
今ならもっと効率的な社会主義に近いシステムがあるというのが末章。
例えば、所有物に年率7%とかの課税をする仕組みが面白い。
富を所有することに課税し、体験したりシェアしたりすることが経済活動の中心となっていく仕組み。
今は、能力は努力でもって獲得されるという建前が存在するが、事実は半分くらいが遺伝的要素が強い。
こういう事実を世間が公式に認めるようになると、技術によりこの遺伝的劣勢を何とかしようという発想が生まれる可能性がある。
脳に電極を埋める事でニューロンを活性化し、誰でも天才にできる技術を紹介していた。
人類を全員天才にして遺伝的格差をなくす考え。
毎度の事だけど、持っていきたい意見の為に資料を当てはめるってところがある書き方だけど、ベルカーブの膨らみの部分で語るなら間違ってはいないのかも知れない。
ベーシックインカム否定論と末章のポスト資本主義のシステムの紹介は読みごたえあります。